金融動乱金融庁長官の独白

五味元金融庁長官が1998年の金融監督庁発足以降2007年に退任するまでの主な金融事件に関して説明する著。世に経済関連の告白書は多いが、本書はその類だと思って読むと拍子抜けする。残念ながらこの時期を生きてきた人間からすれば、本書の内容は概ね既に報道等で知っていたり、ある程度予想できたことの範囲を超えていない。本書内にも記載されているが、金融庁自体が意思決定を事務方から積み上げてくるシステムであることから、金融庁の最高責任者であった五味氏自身にそれぞれの事件に関する「現場的な臨場感」がなかったのではないかと思う。ないしは、評判になった多くの告白書のように、社会的な地位を追われ高ぶる感情の中で書かれたわけではなく、五味氏自身に当然にまだ「保身」の気持ちもあるのだと思う。しかしながら、この時代は長銀、日債銀、りそな、UFJといった銀行が次々と破綻に追い込まれていった、まさに「金融動乱」の時代であり、その時代の金融監督の最高責任者による歴史証拠である。数十年後には大変な歴史的価値を持つ書物になる可能性は十分に秘めている。そういった意味では「金融庁長官の独白」という副題をつけない方が誠実でよかったのではないかと思う。