原発輸出の欺瞞――日本とベトナム、「友好」関係の舞台裏

原発を白紙撤回した現在、本書を読むとやや情報が古い感じもするが、当時のベトナムへの日本側の工作がよくわかり、とても参考になった。特に興味深かったのは原発の技術、知識もそれほど高くないベトナムに2009年に原子力法が施行されたということで、その概要が本書で紹介されているが、あまりにも簡単すぎて、これでは運用はできまいと感じた。「放射性廃棄物、使用済み放射線源および使用済み核燃料の処理および保管」（ｐ93）、「放射線事故または原子力事故への対応」（ｐ96）、「放射線事故および原子力事故による損害の補償」（ｐ98）などはただ単に字が書いてあるだけであり、正直こんなことをベトナム政府が行うとはとても信じられない。なぜ信じられないか？私は「おわりに」に書いてある著者の最後のページの一言に全く同感である。「これはベトナム人には無理や」（Ｐ210）。私もベトナムに20年以上住み、ベトナム人と一緒に暮らし、仕事もしている身から経験上、原発をベトナム人に運営させるのは非常に危険であると考える。まず仕事への責任感。福島のような事故が発生した場合、彼らは責任を持ってきちんと最後まで対処をするなんてしないであろう。ましてや決死隊なんて命をかける人なんていまい。みんな逃げ出してしまうのがオチであると考える。安い給与のために命なんてかけられない。また精密部品からできている原発。ベトナム人は純正部品なんて使わず、有り合わせの中国製密輸部品などで勝手に改造をしてしまう。しかも報告などせずに。そんなことをすれば他の部品に負荷がかかり、他の部品が故障してしまう。原発の故障事故は一歩間違えれば大事故につながってしまう。間違えを認めず、責任転嫁を行う、またそれを隠そうとする性格。多くのベトナム人は自分の過ちを認め、謝ることをしない。いつもthong cam（理解してくれ）とかbo qua（なかったことにしてくれ）というだけ。それが彼らの謝罪のことばなのだろうが、どうも反省しているようには見えない。しかし一番の問題はそのようなベトナム人の国民性も研究せず、原発を売り込もうとした日本政府の無責任さ。原発事故は人類の将来に影響を及ぼす大きな事故。ベトナムでの原発運用はその可能性が非常に高い。日本政府や原子力ムラはカネ儲けのことしか考えておらず、原発事故が起きた場合にその国の国民が苦しみ、日本もその信頼、信用も失うことをなんとも考えていない。原発なんて結局は誰のためにもならない、単に原子力関係者を潤わせる金儲けツールにすぎないのだ。