「日本昔ばなし」再発見! (宝島社文庫)

おなじみの童話でも各地に分派して、独自の伝わり方をしたり、他の童話と混ざりあっていたりと面白いです。例として桃太郎の話を挙げます。桃太郎に地獄から手紙が来て「(姫をさらったから)きびだんごを作ってもってこい」と脅しが来ます。作者曰く「縁もゆかりもなく、しかもまだ顔を見たこともない姫を預かってるからと言われても、普通の人なら困惑するか、無視するだろう。しかし、桃太郎は普通の人ではなかった！」作者は書いていませんが、姫様を救えば、姫の寵愛を受けて婿入り、姫が救いがいもなく、桃太郎を拒否しても父親からほうびをもらえる可能性は高いので、桃太郎はそれなりに算段を付けていたのだろうと僕は思います。そのほかに猿蟹合戦を彷彿とさせる、石臼、栗、蟹、馬糞、針等が家来になる話もあるらしく、猿蟹合戦の後日談とも取れると思います。三年寝太郎の「幸運をつかむまで寝てばかりいた」という指摘も、寝太郎が急に動き出して、幸運を手にすることを思うと、寝太郎は綿密な計画を寝ながら練って時期を待っていたという解釈も成り立つと思います。作品解説における著者独自の解説は半ば強引だったり、話によって短かったりという部分もありますが、なるほどこういう解釈もあるのかと(主に性風俗の意味で)。作品によってはなまはげと聖ニクラウス、座敷わらしと北欧の妖精トント等、世界各地に伝わる神話との比較も試みられています。全体的なこの本での民話の総括を考えれば、「ホレ薬」の解説がごく適当と考えられます。「貧しくきびしい生活を強いられる当時の庶民が、物語の中で明るく痛快に笑い飛ばすことで、明日への不安を忘れようとする、一種のストレス発散、もしくは生への自浄作用であったのだ。ある時は自由に生きてみたいという願望を、それぞれ彼らは「笑い話」に託した。そういう読み方をすると、昔の人たちの知恵とバイタリティとユーモアのすごさがひしひしと伝わってくるのである。」とかく現実に押しつぶされる人が多い現代、何かの方法で自分の想像力を託す試みを現代人も行ってみていいのではないでしょうか。本を読んで浸かるも良し、自分で書くも良しだと思います。余談ですが、表紙の桃太郎は、なぜか無精ひげが生えていて寝ぼけまなこな独特な表情をしています。誰が、モデルなんでしょうか。作者!?